境内

鹿王院の境内は、その歴史と自然美が調和した、静寂と安らぎに満ちた空間です。
冬の鹿王院

鹿王院 山門

山門

山門は切妻式・本瓦葺で四脚門の棟門式という様式です。本柱が棟まで立ち上がる禅寺門形式で唯一の創建(1379年)当時の建物であり、宝幢寺の山門です。棟門式山門は慶長年間を最後に造られなくなり、 現在では建仁寺山門に次ぐ古い中世様式の遺構でもあります。山号『覚雄山』の三字扁額は開基足利義満の自筆です。山門から中門にかけての参道には青苔が茂り、竹林・椿・紅葉がつづき天台烏薬の銘木もあります。一休和尚も少年の頃、1405年(応永12年)にこの山門をくぐり、ここで維摩教の提唱を聴いています。

鹿王院 山門から中門にかけての参道

鹿王院 韋駄天

鹿王院 庫裡

庫裡

中興・虎岑和尚(寛文年間・1660年代)の再建、玄関正面には禅寺特有の「韋駄天」を安置しています。作年・作者は未詳ですが、腰を捻った彫像の技法から江戸初期の頃の作と考えられます。

本庭

本庭は、嵐山を借景とした平庭式枯山水苔庭です。舎利殿の東側に広がる庭園で、「鹿王院庭園」の名称で京都市の名勝に指定されています。庭園には三尊石や坐禅石を中心とした石組が配置されており、樹齢300年を越えるモッコクは古木としての風格を備えています。庭園南には沙羅双樹があります。沙羅双樹は釈迦入滅のとき枕元で一斉に花開いたとの伝承があり、『平家物語』にも仏教の真理である諸行無常を象徴する花として知られています。この庭園は、江戸時代中期の1763年(宝暦13年)頃に作庭されました。

鹿王院 本庭
鹿王院 舎利殿
鹿王院 客殿から伸びる渡り廊下

舎利殿

舎利殿(駄都殿)は、鹿王院の本庭の中心に位置し、客殿から伸びる渡り廊下(廻廊)の突き当たりにあります。二重層宝形造棧瓦葺の建物で、様式は禅宗様(唐様)本位です。もとは客殿の東北にあったものを、1763年(宝暦13年)現在の位置に移築しました。内陣中央の須弥壇上の大厨子には銅製鍍金の多宝塔内に「仏牙舎利」を奉安しております。四方に仏法護持の四天王を安置し、天井には龍図が描かれています。「龍」は法(釈迦の教え)の雨を降らせるという伝承があります。

この仏牙舎利は、鎌倉三代将軍源実朝が中国・宋の都臨安(現杭州)の能仁寺より鎌倉に請じ、当初は大慈寺のち円覚寺に奉安したものを後光厳天皇がその一部を京都に献じさせ、1374年(応安7年)普明国師に下賜され、これを鹿王院に安置しました。

中国より日本の博多の港に仏牙舎利が着いた日が10月15日でありましたので、毎年10月15日を「舎利会」と定め、開扉供養の日として、この日のみ公開しております。

客殿

単層入母屋棧瓦葺の建物で、1890年(明治23年)再中興峨山和尚の代の再建です。『鹿王院』の三字扁額は山門の『覚雄山』の額と同じく足利義満の自筆で、もとは宝幢寺の開山塔である鹿王院の山門に架けられていたものです。「印」に「天山」とあるのは義満の道号であり、「准三后」は皇后・皇太后・太皇太后らに准じる待遇の尊称であり皇族・摂関家・天皇の外戚以外に与えられませんでした。義満は1683年(永徳3年)26歳でこの称号を受けていて、この書は26歳以後のものです。

鹿王院 客殿
昭堂

昭堂

開山堂と仏殿(本堂)を兼ねています。開山堂とは、寺の開山(初代住持)を祀る建物です。寄棟造、棧瓦葺の簡素な禅宗様(唐様)本位の建物です。客殿から舎利殿に続く瓦敷の歩廊の中間に位置しており、ここには釈迦と十大弟子が祀られています。後檀の右には開山の普明国師、左には開基の義満の像が置かれています。伏見大地震(1596)で倒壊したため、1676年(延宝4年)、虎岑和尚が再興し今日に至ります。堂内には15世紀前半の嵯峨一帯の古地図・応永鈞命絵図があります。

茶室

客殿の裏は後庭で、荼庭に続いています。荼席「芥室」があります。

芥は「とるに足らない」の意で謙遜した言葉。室の号は普明国師の別号に由来しています。俳優大河内伝次郎が普明国師550年忌を前にして昭和11年に隠寮として寄進したものを茶室として活用しています。大河内伝次郎は、鹿王院実堂和尚に参禅、明治初めの天龍寺滴水禅師ゆかりの茶室滴水庵を譲り受け、小倉山山麓に大河内山荘をはじめました。この当院の茶室芥室と大河内山荘を手掛けたのが昭和の名工と称される数寄屋師笛吹嘉一郎です。嘉一郎は京都の人で表千家で茶道の稽古をするなど数寄屋師としての素養を身につけ、その建築には阪急小林一三の茶席「即庵」・表千家不審庵増築・堺南宗寺「実相庵」などがあります。本茶室六帖には床・棚・書院を配した書院造、四帖半には床・書院・内仏・袋棚を配した数寄屋造となっていて、用材の吟味をはじめとして笛吹嘉一郎の秀れた数寄屋師としての力量が現れています。六帖茶席の炉は亭主が床を背にする大名手前になっています。

茶室
茶室